氷河期エンジニア、セミリタイアはじめました

セミリタイアしたけど結局1年でサラリーマンに戻りました

氷河期というより不況でモラルが欠如した企業が地獄を作った

氷河期は確かにヤバかったのだが、一番ヤバかったのは求人倍率そのものではなく企業のモラルだ。

私が新卒で入った企業は

  • 入社と同時に全員裁量労働
  • みなし残業時間は適当(実態無視)
  • みなし時間超えても残業代はゼロ
  • 休日出勤は自主的な行動なので無給、代休も無し
  • 夏季休暇無し
  • 年末年始は休みたい日を申請(元日すら申請)
  • 会長が公に大日本帝国賛美

と酷い環境だったが、同業者の知人の多くも、別の企業で似たような待遇で働いていた。

それでも私の環境は特別酷かったため転職を進められることが多かったのだが、転職のために利用した各種エージェント系サービスでも「IT系で残業代出る企業は大企業だけ(お前には無理)」「休日出勤や徹夜は業界的に仕方ない(無給でも)」「この会社どうでしょう、平均残業45時間でかなり短いですよ」といった感じで、日本という国の労働環境そのものが「違法でも全然OK!」というスタンスで動いていた

こんな状況なので、とにかく肉体的に、精神的にタフであることが働くことの最低条件だった。能力の有無以前の問題で、長時間残業や徹夜に耐えられ、無給で経営者のために尽くせないと採用されないという状況だった。

買い手市場だからこんなことになっているという意味では求人倍率の問題なのだが、こういった労働環境は求人倍率が上昇しても中々変化しなかった。ある意味で、日本における労働環境の常識のようなものがカルテル化しており、どこに行っても労働環境は悪いという状況が長く保たれていた

結果、漆黒のブラック企業を避け、出来るだけ灰色に近いブラック企業を探すのが、転職活動の意義になっていた。私自身この状況に絶望し、転職に意義を見出せなくなっていた時期もあった。

だが、私より遥かに辛かったのが最初の就職活動で失敗した人や、肉体的・精神的なタフさが無かった人たちだ。

私は中小企業とは言え新卒で正社員の立場についており、また劣悪な労働環境に耐えてきたということもあり、最低条件のタフさについては証明出来る状態にあった。しかし、正社員になれず非正規雇用となってしまった人や、元々肉体や精神が強くない人、また最初の職場で壊されてしまった人は、求人側から見て私よりも魅力が無いと判断されていた。

当時で言えばそこそこ条件の揃っていた私ですら、まともな企業を紹介してもらうことは不可能だったのだ。私より不利な立場にあった人たちには、より条件の悪い企業しか選択肢は残されていなかった。

氷河期は終わっても、彼らは転職や再就職の機会で再度拒絶され続けた。

それでも、世の中の会社が 黒灰灰灰灰白白白白白 のような状況であれば「白は無理でも灰に入り込めるかも」という希望を抱くことは可能だ。

しかし 黒黒黒黒黒黒灰灰灰白 のような状況で希望を抱くことは可能だろうか。

拒絶され、希望も失った結果、正規雇用を諦めた人が大勢いるのではないだろうか。氷河期世代と呼ばれる不遇な人たちは、こうやって作られていった。

しかし、ここ数年急激に労働環境が改善してきている。今の労働環境は10年以上前とは比較にならないくらい良い環境にある。

単純に人手不足になってきたというのもあるだろうし、政府の方針が転換したというのもあるだろう。SNS内部告発の威力を高め、企業に大きな影響を与えたという面もあるだろう。

しかし、今になって「黒灰灰灰灰白白白白白」の世の中がやってきても、正規雇用を諦めて年月が経過してしまった人たちには遅すぎる。加齢によって労働者としての価値が低下し、良い仕事の経験を積むことが出来なかった彼らは「灰」の枠に入り込むことすら困難だ。

こういった実情を知らず「自己責任」と切り捨てる人も居るが、彼らはこういった環境が日本にあったことを知っているのだろうか。

転職しなかったのではなく出来なかった、仮に出来ても劣悪な環境で心身を壊される可能性が高かった、実際に壊された。こういった人たちが沢山いたのが当時の環境だ。

当時、私の同僚にはサービス残業過多で時給換算500円を切ってるような人が沢山いた。「マックでバイトしてた方が良かったよw」と笑いながら会社を辞めた人も居た。

努力不足で上手く行かなかった人ももちろんいるのだろう。しかし、こういった劣悪な環境下での出来事だということは、広く理解されて欲しいと思う。