氷河期エンジニア、セミリタイアはじめました

セミリタイアを実現するためにやったこと、実現後にやっていることなどの生活記

武蔵小杉のタワマンに住みたくて住んだらいかんのか

武蔵小杉がうん小杉呼ばわりされている。

これ自体は単なる悪ふざけなのでどうでも良いのだが、一部から「武蔵小杉なんかに住む方が悪い」という論調が繰り広げられている。

正直言うとこれもどうでも良い。武蔵小杉在住の方や、各地の被災者の方には同情するが「〇〇なんかに住む方が悪い」というのはどんな街でも言われることだからだ。

保育所の空きが無いと言えば、「そんな人口密集地に住む方が悪い」
車が無いと生活出来ないと言えば、「そんな不便なところに住む方が悪い」

結局どこに住んだってそれなりの不便もあれば、無関係の人から叩かれることもある。様々な条件を考慮して、それぞれが自分の住む街を選択しているのだが、他者から見るとその選択が間違っているように見えるというのは自然なことだ。もちろん、あれこれ言われる筋合いは無いのだが。

だが一つ、どうしても引っ掛かることがある。武蔵小杉・タワマンに対する変な擁護だ。

colopon.hateblo.jp

タワマンだって、「タワマンに住みたい!」と思ってた人もなかにはいるかもしれないけれど、駅近に住みたければタワマンくらいしか選択肢ないのが現状。駅近に小さなマンションの物件なんてそうそう出ないしそもそも数がない。

p-shirokuma.hatenadiary.com

もちろん独り暮らしを続けるだけなら、タワーマンションを選択する必要はないのかもしれない。しかし子育てをしようと思えば部屋数が必要になり、首都圏に土地を持たないおのぼりさんには、そういう部屋数をあてにできる選択肢が限られている。

どちらの記事でも、武蔵小杉やタワマンが「仕方なく選択せざるを得ないもの」であるかのような物言いをしているが、私にはとてもそうとは思えない。

駅からの距離をほんの少し伸ばすだけで、いくつかの駅を選択肢に入れるだけで、タワマン以外で駅近で都市部への交通の便が良くて子供部屋を確保出来るマンションは普通に存在する。そして、それは総じて武蔵小杉のタワマンよりも安い。

武蔵小杉は妥協の結果仕方なく選ぶような特別安い土地でも無いし、タワマンも同様だ。多分、今回被災した人も含め、多くは単に「住みたくて住んでる」人だろう。

武蔵小杉にしても、タワマンにしても、「好きなところに住んで何か問題あるのか」で良いと思うのだが、何故「仕方なく住んでる人もいるんです」のような話になってしまうのだろうか。住人からしても、「武蔵小杉に住む方が悪い」呼ばわりされる筋合いも無いが、「仕方なく住んでる」呼ばわりされる筋合いも無いだろう。

私には、擁護のようでむしろ卑下しているように見えてしまったのだが、私がうがった見方をしているだけなのだろうか。

運動初心者はあまり効率を求めない方が良い

今週のお題「運動不足」

5年ほど前に本格的なダイエットを試みたことがある。

その際にダイエットアカウントを作って活動していたのだが、長年運動を続けていくうちに色々なことがわかってきた。

その一つが、「運動初心者は効率を気にし過ぎない方が良い」というものだ。

最近は筋トレブームが来ていることもあり、運動不足解消に筋トレを始める人が増えている。

今は書籍やインターネットで、簡単に効率的なトレーニング方法を知ることが出来る時代だ。筋トレなら8~12回が限界の負荷をかけて、それを数セットこなすとか、筋肉の部位を複数日に分けてトレーニングすることで、回復時間を確保するとかそういった情報だ。

確かにそれは科学的根拠にのっとった正しい方法なのだろうが、あまりそれにこだわり過ぎない方が良いと私は考えている。なぜなら、私の観測範囲ではその効率的なトレーニングを続けることが出来た人は10人に1人もいなかったからだ。

理由はいくつかあるが、1番の理由は精神的にきつ過ぎるということだ。1セット8~12回が限界になる重量でトレーニングするというのは、運動が苦手な人からすると相当な負荷になる。腕立て伏せを20回なら出来るかもしれないが、ベンチプレスを10発ギリギリの重量でこなすのは相当にキツイのだ。

また、正しいフォームが見についていないうちは、狙った部位にしっかり負荷をかけられないという問題もある。何とかベンチプレスをこなしたとしても、狙っていない部位の筋肉が先に疲れてしまう。疲れてしまうだけならまだ良いが、怪我をしてしまうこともある。

更に、トレーニング慣れしてない人は休むと復帰できなくなるケースが多い。毎日腕立て20回×3セットなら続くが、週に2回のウェイトトレーニングは続けられないといった感じだ。休みを多くとると習慣化に苦労する。

こういった事情を見ていると、運動慣れしていない人の取るべき運動習慣は以下のようなものになるのではないかと思う。

  • 軽い筋トレや有酸素運動をまずは毎日少しだけやってみる
  • ウェイトをやるなら気持ち的に嫌にならない程度の重量から始める
  • どんなトレーニングもフォーム優先で、負荷の強さにはこだわらない

もちろん、お金を払ってジムに行ける人であれば「毎回参加するスタジオレッスンを決める」などすれば、より運動習慣を作りやすくはなるだろう。

ネット上には効率的な素晴らしいトレーニング方法が溢れており、辛く厳しいトレーニングで凄い身体を作り上げている人も沢山目に付く。ただ、最初から同じように出来るわけでは無いし、同じようにやる必要も無い

どんなことでも最初はドンドン上達するように、身体も最初はそこまで追い込まなくとも十分に変化する。まずは辛くないレベルで、「運動がそんなに嫌じゃない」という感覚を作り上げると良いのではないかと思う。

セミリタイアなのかアーリーリタイアなのか、それが問題だ

私はセミリタイアを実現していますが、アーリーリタイアは実現していません。

セミリタイアは文字通り「セミ(半分、準などの意味)」なので「半分引退」です。つまり働いています。多少は働かないとお金が持ちません。

対して、アーリーリタイアは「アーリー(早い)」なので、若い内に引退することです。つまり働きません

実際にアーリーリタイアを実現している人を見ると、ほとんどの人が不労所得のみで生活をしています。不動産運用や、株の配当などが多いようです。

似たようなものと認識している人もいるかもしれませんが、実際には大きな差があります。セミリタイアには「いつまでその労働所得を得続けることが出来るのか」という大きな問題点があります。

私はフリーランスとして活動していますが、基本的には決まったところからの仕事を受けるか、広告費で稼ぐかの2択になっています。新規開拓は行っていないので、全ての取引先から切られると収入は広告費のみになります。

広告費も5年以上前に作った趣味のサイトいくつかで細々と稼いでいるだけですが、最近はGoogleがキュレーションサイトの優先度を大幅に上げるようになってしまったため、収入は減少しています。

まとまったお金を運用に回しているので、どうにか数年以内にアーリーリタイア(配当だけで食っていける状態)にたどり着きたいとも思っていますが、運用に関しては先が読めません。

ということで、いつまたサラリーマンに戻るかわからない状態にあります。雇われの方が短期間で稼ぎやすいので、意外に早く戻るかもしれません。

ということで、セミリタイアを目指している人は沢山いると思いますが、実はセミリタイアはそこまで安定した状態ではありません。アーリーリタイアまでたどり着けないのであれば、いつかはサラリーマン生活に逆戻りすることになります。そのため、セミリタイアした後は「どうやってアーリーリタイアまでたどり着くか」という戦略が必要になってきます。

セミリタイアがゴールだと思ってたら、むしろ新しいスタート地点に立っただけでしかなかったということです。セミリタイアまでの道のりは険しかったですが、この先も結構険しいです。

ただ、だからと言ってアーリーリタイア可能になるまでサラリーマン生活を続けるべきかというと、そうとも思いません。一度セミリタイアしてみないと見えてこないものもあります

ある程度まとまった時間が無いと挑戦出来ないこともあります。雇われの身からしばらく離れてみると「サラリーマン楽だったなー」と辛かったはずの過去に良い部分が見えてきたりもします。私はセミリタイアしたからこそ「また会社で働いても良いかな」と思えるようになりましたし、また、余裕があるので「飽きたらすぐ辞めれば良いかな」とも思っています。

そういった意味で、早めのセミリタイアを実現してみるのも悪くないと思いますが、「アーリーリタイアにたどり着かない限り、安定はしないし不安も消えない」というのは理解しておいた方が良いとも思います。

折角ある程度資金を貯めて引退出来たのに、気づいたら資金を使い尽くして長い無職歴だけが残ってしまったという状況も十分にありえるのが、セミリタイアです。

台風や地震などの自然災害で株価はどう変動するのか

2011年3月11日、東日本大震災が起こった日の日経平均株価終値は10,254円となった。

地震の発生は14時46分。場中ではあったが、日経平均株価は100円程度の下げに留まり、大きな値動きにはならなかった。12日、13日が土日ということもあり、危険回避のための売りが加速しても良さそうに見えるが、そうはならなかったようだ。

土日に被害の大きさが伝わったことで、14日月曜日には大きく値を下げた。終値は9,620円、600円超の下げとなった。また、その翌日15日に原発関連のニュースが出たことで、更に1,000円以上値を下げることになる

「災害は大きく株価に影響を与える」

そう思ったかもしれないが、実はそうでもないことがこの後わかる。15日に終値8,605円まで値を下げた日経平均株価は、翌16日には500円近く上昇し、終値で9,093円を付ける。復興など何一つ始まってもいないにも関わらず。

そして、震災発生から20日後の31日には終値9,755円まで回復してしまう

東日本大震災の頃と今の状況は大きく異なるため、これが参考になるかどうかはわからない。ただ「災害の規模が大きいからと言って、株価が大きく下がるわけでは無い」ということは理解しておいた方が良さそうだ。

今回の台風でも、「未曽有の被害が出るのではないか」「株価も大きく下がるのではないか」との声がちらほらあった。しかし、どちらかというと投資家は「前回の千葉の被害でホームセンター系銘柄が大きく上昇した、LIXIL買おう」とか「建設・電気工事系銘柄の後押しになるのでは」と不謹慎かもしれないがポジティブに捉えている人が意外に多いように見える

もちろん、保険系やJRなど資産が確実に目減りする企業もある。私もJRの空売りを検討しているので、復興系銘柄の値上がりだけが起こると考えているわけではない。ただ、リスクオンの空気が強い今は、台風すらポジティブ要因になるのではないかという疑念も持っている。

投資は感情的になったら負ける。大きな被害が出ている状況を目にすると「こんな状況で日本の経済が明るいわけがない」と思いたくもなるが、市場の空気は一般人の感情とは異なる動きをする

市場の動きを見極めて、冷静な行動を取ることが求められるだろう。

パチンコで理解した困窮者の精神状態

私は元パチンカスだ。

「パチンコは娯楽、私は純粋に娯楽を楽しんでいるだけで、ギャンブルが好きというわけでは無い」

そんな風に自己正当化していたこともあったが、私はまごうことなきギャンブル中毒者だった。

なぜパチンコをやるのか。理由は簡単で、お金が無いからだ。「お金が無いならなんでパチンコなんかやるの?」と思う人も居るだろうが、お金が無いからこそパチンコをやるのだ。パチンコにはお金を稼げる「可能性」が存在する

給与をもらっても家賃と光熱費を引くと10万円も残らない。食費や日用品を出来るだけ節約しても、会社強制の飲み会があるので3万も残れば御の字。2ヶ月分もらえるはずだったボーナスは会社都合で0.3か月分。

こういった状況が続くと「頑張って3万円づつ貯金してどうなるの?」「欲しいものはどれだけ我慢したら買えるの?」「毎日これだけ働いて食べたいものも食べられないの?」と貯蓄に対して疑問が湧くようになってくる。

1ヶ月睡眠時間を削って、上司の尻拭いをして、お偉いさんのご機嫌取りをして、残るのが3万円。実にくだらない。

怒りと絶望が相まって、冷静な判断力を奪っていく

そうだ、学生の頃スロットで月に10万円くらい稼いでいたこともあったじゃないか。大花火で20万出したこともあったなぁ…。10万あればテレビも買えるなぁ、飲み会にも参加できるように…。

大体7割くらいの確率で負けるのがパチンコなのだが、残り3割の可能性が素晴らしく魅力的に映ってしまう

「負けたら毎日乾麺のそばと卵だけで行けるだろう」

こうして、現状を変えるための希望として、なけなしの3万を握りしめてパチンコ屋に向かってしまうのだ。

もちろん、高確率で負ける。そして、負けた後には更なる怒りと絶望が湧いてくる

安い給与で激務を押し付ける会社に、そんな労働基準法違反を放置している国に、そんな状況の国を選挙で作り上げている社会に、安い給与からガッツリ抜いたお金で年金生活を送る老人に、親が裕福で楽なルートに乗せてもらえた恵まれた人達に、全てに怒りと恨みが湧いてくる。

パチンコに行って負けたのは自業自得でしかないのだが、パチンコに行くくらいしか希望が無い状況にあるのは、会社が、国が、社会が、老人が、豊かな人達のせいでもある。あいつらのせいだ。そういう精神状態になってしまう。

人は困窮すると、自己防衛のために他者にその原因を求めるようになる

自分のせいではない。いや、自分のせいもあるのだろうが、あいつらのせいでもある。

極端な人はそこで自己正当化の報復に出てしまうことがある。あいつらのせいでもある以上、あいつらにも償わせなければならない。自分だけが苦痛を味わっているのはおかしい

時としてそれは凶行となる。

秋葉原の通り魔事件のような凶悪犯罪が起こると、「一人で死ね」という人が少なからず現れる。私も同意見ではあるのだが、困窮時の精神状態を経験した立場から言うと、そんな意見は全く意味を持たないとも思っている。

困窮して凶行に走る人の目的は、自殺ではなく報復なのだ。自分が死にたいのではなく、自分を追い込んだ(と思っている)人たちに仕返ししたいだけなのだ。

私はもうほとんどパチンコには行っていない。パチンコでの勝ち負けが生活に直結しなくなった頃、パチンコを面白いと感じなくなってしまったからだ。

年に1.2回遊びに行ってみたりもするが、負けても全く怒りは感じない。パチンコに行くことを選んだのは自分自身で、負けることもあるのは当然だからだ。しかし、困窮時のことを思い出すと、これは持てる者の考えなのだということがわかる。

持てる者は気づきにくいのだが、社会に欠陥があることは事実で、その欠陥に悪い形ではまってしまった人が困窮するという現実は存在している。自己責任も存在するが、社会にも欠陥は存在し、それが人に大きな影響を与えてしまうということも理解すべきだろう。

産業医も社労士も社員から見たらただの敵だよ

nshhhhhhin.hatenablog.com

産業医の役割とは、健康上に問題のある従業員を、経営者の要望に沿って労働基準法に違反しない形で追い出すことである。

社労士の役割とは、人事労務に関する揉め事を法的にクリアして、経営者の要望に沿って労働基準法に違反しない形で酷使する、または追い出すことである。

「そんなことはない、公平な立場に立って従業員・企業双方に適切なアドバイスをするのが彼らの仕事だ」

そんな風に思う人も居るかもしれませんが、そんなことはないんです。

理由は以下。

企業に雇われているのであって従業員に雇われているわけでは無い

会社にとって都合の悪いことを言う産業医や社労士は契約を解除されます。つまり、経営者にとって都合の良い産業医・社労士にしか仕事は回ってきません

経営者にとって都合の良い産業医・社労士とはどういう人でしょうか?社員の上げてきた悩みをどう取り扱うと経営者にとって都合が良くなるのでしょうか?

健康上問題のある社員は、健康上問題の無い社員と比べて価値が低いと見るのが一般的です。価値が低い社員は出来れば辞めさせたいと考えるのも一般的です。

労働問題を口にする社員はどうでしょうか。会社にとってどう取り扱うと都合が良くなるでしょうか。

そういうことです。

もちろん、全ては経営者がどう感じるか、どう判断するかになります。

経営者が従業員のことを考える善人だった場合は、経営者の要望に沿って従業員のためになる形で動いてくれるでしょう。

常勤のケースはほとんどなく、月1くらいでしか会社に来ない

健康問題や労働問題に月1の訪問でどうやって対応するのでしょうか。普段社内を見ていない以上、出来るのは「会社の担当者からの報告」を元にした検討くらいですが、その報告に意味はあるのでしょうか。

健康問題や労務問題を報告する担当者というのは、社員が選ぶのでしょうか?それとも経営者が選ぶのでしょうか?

どんな情報が隠され、どんな情報が伝えられるのでしょうか?仮に経営者にとって都合の悪い情報が伝えられる時、それはどんな意図で伝えられるのでしょうか

面談結果は経営者に伝わる

どれだけ産業医や社労士が社員のことを考えていても、どれだけ親身に相談に乗ってくれたとしても、その内容は全て経営者に報告されます。雇い主は経営者だからです。

経営者からすれば「健康上問題のある社員は怖いし要らない」「労働問題を表沙汰にする社員は怖いし要らない」となるのが当たり前です。面談結果の報告が「病気の可能性あり」「不満を抱えている」などであれば、経営者の次の言葉は「どうやったら問題なく退職させられる?」です。

そもそも、会社におけるメンタルヘルスや労働問題というのは、労働環境の問題そのものであることが多いです。つまり、会社の現状に異を唱えることと直結します。

私生活や家庭問題が原因のケースもありますが、労働環境が原因だと推測されている場合は「排除のための面談」として最初から組まれているのが普通です。

実際私も管理職として退職勧奨を前提とした面談に何度も関わりましたが、事前に役員と打ち合わせをして「ゴールを伝えられる」のが普通でした。

自分以外は信頼しない

私は10社近くを渡り歩いた後お金を貯めてセミリタイアしましたが、長い会社員生活で理解したのは「上司も部下も同僚も取引先も外注も親会社も子会社も、何も信頼など出来ない」ということです。

人にはそれぞれに大事なものがあります。その大事なものを守るためなら、いくらでも変われるのが人間です。

産業医にも、社労士にも、経営者にも、自分が大事にしているものがあります。それは、お金や権力かもしれませんが、愛する配偶者や子供の生活かもしれません

ブラック企業に悪質な労務テクニックを伝えることで生計を立てている社労士事務所もありますが、そんな社労士事務所で働いている人にも、親や配偶者、子供などがいます。彼らは間違いなく社会悪ですが、本人は大切なもののために仕方なくやっていると思っているかもしれません。

だから許せというわけではありません。そうではなく、他人に期待することが無駄だということです。

信頼できるのは利害関係が一致している相手だけです。それも、利害関係が変化するまでの話です。

少なくとも、コロコロ変わる産業医や社労士などには、1ミリたりとも期待しない方が賢明だと言えるでしょう。

あなたが彼らを犠牲にしてでも快適な環境を得たいと考えるように、彼らもあなたを犠牲にしてでも契約更新が欲しいのですから。

真実は嘘に勝てない

「俺、突然フィリップって呼ばれるようになって、なんか変な噂が流されてるっぽいんだけど」

オンラインゲームで知り合いのKとペア狩りをしていた時のことだ。

彼はどうやら、先週くらいから野良(知人以外の人たち)のパーティーに参加した際に、時々「フィリップ」という名で呼ばれるようになったらしい。彼曰く「なんでそんなあだ名になったのかはわからない…」とのことだったが、私には心当たりがあった

Kと私は知人だったが、ゲーム上は敵対関係にある勢力に所属していた。通常時交戦することは無いものの、PvPの戦闘が行われる際には、ゲームのルールにのっとって遠慮なく相手を倒しに行くような関係だった。

Kはゲーム内では名の知れたプレイヤーで、PvP時には出来るだけ真っ先に落としたい相手の一人だった。私と彼は仲が良かったが、私の陣営の中には彼のことをこころよく思わない者もいた。PvPで負けたことを恨み、彼が戦場からいなくなれば…と考える者もいた

そう、彼がフィリップとなったのは、多分私の陣営の誰かの仕業だ。

私は彼のあだ名の由来を知っている。彼のあだ名の由来は「錦糸町のフィリピンパブに通ってるゲーム内の武勇伝を語る痛い奴」から来ている。

Kの名誉のために言っておくが、全て根も葉もない嘘である。

私の所属する勢力のチャットでも、「フィリップ先週の金曜も行ってたらしいよ、奥さんも子供もいるのに…」とか「あいつ月収25万しかないくせに、フィリピンパブで10万くらい使ってるらしいよ」とか根も葉もない噂がたびたび囁かれていた。

…先週の金曜?

私は先週の金曜Kと一緒に狩りに出かけていた。会社が早く終わったということで、19時から深夜3時までみっちり狩りにいそしんでいたはずだ。これはおかしい。

「いや、俺先週の金曜Kと狩りしてたよ。嘘じゃないの?」

と言ったところで、個別チャットが入った。私の勢力で最強候補の派閥のリーダー、Mだった。

それ、俺が流した噂だから、もちろん嘘よ

…絶句した。MとはKと同じくらい長い付き合いだ。Mは普段仲間のために消耗品を集めていたり、低レベルプレイヤーのレベリングにも率先して付いていくような良い奴だった。

Mは私に気を許していたのか、そのまま話を続けた。

「Kは厄介だからログイン出来なくしてやろうと思って」
「野良で狩りしてる時もKの噂流してるから結構広まってきてる」
錦糸町は適当に言っただけだけど、リアルな雰囲気出てるでしょ」
「奥さんと子供の話は俺が言ったわけじゃない、勝手に誰かが追加した」
「流石に度が過ぎると思える情報もドンドン追加されててまずいと思う。反省してる」

そう、Kの噂はMがKを追放するために作ったでたらめで、噂を聞いた第三者が新しい情報をつけ足して広めていたというのが真相だった。噂には尾ひれがつくというが、尾ひれどころかくじらのように肥大化していた。

私はKにどこまで伝えるべきだろうか。

Mは許せないが噂の尾ひれがデカ過ぎる、Mだけの責任には出来ない。そもそも、KがMのしわざと公開したところで、誰が信じるだろうか。その時、Kは私のことを話すだろう、私までバッシング対象となるのではないか。

私は結局、Kに全てを伝えることはしなかった。

Kには「誰かが噂を流しているんだろう、嘘だって理解してる人も沢山いるから、そいつらとこれから組んでいけば良いよ」とだけ言った。

Kは「ありがとう」とだけ言っていた。それからは今まで以上に一緒に狩りに行く機会が多くなった。しかし、それから1ヶ月後Kはアカウントを削除して引退した

噂で「家庭の問題で辞めざるを得なくなった」という話が回ってきたが、もちろん嘘だ。Mは反省したのか、今回は関与していなかった。

これは15年以上前の出来事だ。今のようにSNSが発達していたらKはどうなっていただろうか。

あの時私が学んだのは「真実は嘘に勝てない」ということだ。

私やKの仲間は噂話の否定を毎日のように行っていたが、噂話は広まり続け、嘘の情報は追加され続けた。

真実は一つしかないが、嘘は無限に作ることが出来る。人は都合の良い嘘を信じ、都合の悪い真実には目を瞑る

私が噂の否定をしていた時、野良で出会った人のコメントが今も強く心に残っている。

嘘でも面白い方が良いんじゃない?フィリップにも良いネタだと思うよ